東京都手をつなぐ育成会 60周年記念誌

育成会 60周年記念誌


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障害者就労の推移〜これまでの10年を振り返り、これからの10年を考える〜世田谷区立障害者就労支援センターすきっぷ施設長西村周治平成24年以後の10年間の障害者の就労にまつわる状況を見ると、障害者雇用者数の増大はもとより、制度施策の変化による権利擁護体制、支援体制の充実が挙げられます。本稿では、この10年間の障害のある人の就労環境の変化と将来に向けた準備について考えます。1.就労移行支援事業所の推移平成18年の自立支援法施行により、新たに就労移行支援事業が誕生し、障害福祉サービスに就労支援の考え方が本格的に導入されました。就労移行支援事業には、福祉サービス事業者が次々に参入し、平成24年には全国で2500か所、ピークとなった平成30年には3500か所を超えました。現在は徐々に減少していますが、東京都内には現在でも360か所の移行支援事業所があり、4600人を超える方々が利用しています。2.関連法の推移平成24年には障害者虐待防止法が施行され、障害者虐待状況等の結果が毎年公表されることとなり、使用者(企業)虐待の件数も公表されるようになりました。平成28年には障害者差別解消法が施行され、「合理的配慮」という言葉が広く浸透しました。合わせて障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、雇用促進法)が改正され、企業に雇われた障害者への合理的配慮の提供が義務化されました。このように働く障害者の権利擁護の体制が整備されてきています。障害者雇用率は、平成24年以後段階的に引き上げられました。以前は企業の雇用義務の対象となっていたのは身体障害、知的障害のみでしたが、平成30年の雇用促進法改正により精神障害を含めたすべての障害に拡大されました。表1障害者雇用率の推移平成24年1.8%平成25年改正平成30年改正2.0%2.2%令和3年2.3%3.働く場の変化知的障害のある人の就職先は、特例子会社、飲食業、事務補助、製造業、清掃等多岐にわたり、業種業界を問わず様々な職場で働けるようになってきました。平成27年には障害者雇用納付金支払い義務の対象が100人を超える企業まで引き下げとなったことで、中小企業の障害者雇用を進める必要が生じました。特に保育園や高齢者施設などを運営する社会福祉法人でも、障害者雇用を積極的に進めるようになり、施設の清掃や用務として知的障害のある人たちの職域が拡大しました。このことは、保育園や高齢者施設が住宅街の中に多くあることから、自分が住まう地域で働ける「職住近接」が可能となり、働ける場の拡大だけでない新たな効果が生まれました。4.就労と生活をどのように維持するか?一部の知的障害のある人は昔から企業就労していましたが、多くの知的障害者が働けるようになったのは、平成10年の知的障害者の雇用義務化以後と言えます。そのころに就職した人たちも約20年が経過し、生活環境や家族関係の変化が生じてきています。生活環境の変化は就労の継続に大きな影響を与えます。その時、どのような支援の手立てが必要となるでしょうか。現在、東京都内には59か所の区市町村障害者就労支援センター(東京都独自事業)、6か所の障害者就業・生活支援センターがあり、住まう地域で支援を受けられる体制が整っています。身近な支援機関に登録し、日常的なコミュニケーションを取り、困りごとの相談に乗ってもらうことや、将来の生活環境の変化に備え、自立生活に向けた準備をしておくことはとても重要です。自立生活=一人暮らしというわけではありません。実家で暮らしながらも、様々な支援を受けながら独立した生計を維持している人もいます。これからの10年は、働く障害者が自身の生活環境の変化に対応できるように、また、支援者はさらなる支援ニーズに対応できるように、しっかりと準備をしておくことが求められます。「郵便物の発送・仕分けを一手に引き受けています」法人本部で働くKさん)079


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